はじめに
インドネシア人材の採用を検討するとき、多くの経営者から出てくる質問があります。
「インドネシア人ってイスラム教徒が多いんですよね?礼拝とか、どう対応すればいいんでしょう?」
この疑問は、決して失礼でも偏見でもありません。知らないまま受け入れてトラブルになるより、事前に正しく理解して準備しておくことのほうが、お互いにとってずっと良い結果をもたらします。
この記事では、イスラム教の礼拝について基本的な知識を整理したうえで、職場としてどう対応すればいいかを具体的に解説します。
「難しそう…」と感じる必要はありません。実態を知れば、思ったよりずっとシンプルに対応できることがわかるはずです。
まず知っておきたい「礼拝(サラート)」の基本
イスラム教には、1日5回の礼拝(アラビア語でサラートと言います)という義務があります。
礼拝の時間帯は季節や地域によって変わりますが、おおまかには以下のとおりです。
**夜明け前(ファジュル)**は日の出前の早朝で、多くの場合は出勤前に自宅で済ませます。**正午過ぎ(ズフル)**は昼食休憩の時間帯と重なるため、職場での対応が必要になるケースが多い時間です。**午後(アスル)**は日本の就業時間内にあたることがあります。**日没(マグリブ)**は夕方から夜にかけてで、退勤後に対応できることがほとんどです。**夜(イシャー)**は就寝前で、帰宅後に行います。
つまり職場で配慮が必要になるのは、主に**「正午過ぎ」と「午後」の2回**です。
礼拝にかかる時間はどのくらい?
1回の礼拝にかかる時間は、準備(清めの儀式・ウドゥーと呼びます)を含めて15〜20分程度です。
「1日に何度も長時間離席するのでは?」と心配される方もいますが、実際にはそれほど長い時間ではありません。昼休憩の時間内に済ませられるケースも多く、職場としての対応は昼休み前後の短い時間の確保が中心になります。
また、やむを得ない事情(現場作業中・接客対応中など)がある場合、時間をずらして礼拝することも許容されています。信仰熱心さには個人差もあるため、本人と事前にコミュニケーションを取っておくことが大切です。
職場に必要な対応は、実はシンプル
「礼拝スペースを用意しないといけないの?」と聞かれることがありますが、大がかりな設備投資は必要ありません。必要なのは以下の3点です。
① 礼拝できる小さなスペースの確保
専用の礼拝室が理想ですが、必ずしも必要ではありません。会議室の一角・休憩室・倉庫の空きスペースなど、人が邪魔されずに5〜10分静かに過ごせる場所であれば十分です。メッカの方角(日本からはほぼ西南西)に向かって礼拝するため、方角の確認ができるとより親切です。
② 身を清めるための水場へのアクセス
礼拝前には「ウドゥー」と呼ばれる清めの儀式を行います。手・口・鼻・顔・腕・頭・耳・足を水で洗う行為で、洗面台やトイレの手洗い場で対応できます。特別な設備は不要です。
③ 礼拝時間への理解と柔軟なシフト調整
設備よりも大切なのが、「理解してもらえている」という安心感です。礼拝の時間を頭ごなしに禁止したり、毎回申請を求めるような対応は、信頼関係を損ないます。休憩時間の使い方について事前に話し合い、業務に支障が出ない範囲でルールを決めておくのがベストです。
「礼拝を認めたら、他の社員との不公平感が出ないか?」
これも経営者からよく出る懸念です。
考え方として参考になるのは、**「宗教上の配慮は、特別扱いではなく合理的配慮である」**という視点です。
たとえば、持病がある社員に対して休憩を多く取らせたり、妊娠中の社員に対して業務を軽減したりすることと、本質的には同じことです。個々の事情に応じた対応を行うことは、職場のダイバーシティ・マネジメントの基本です。
実際には、事前に日本人スタッフに対して「インドネシア人の文化や宗教についての説明会」を簡単に行うだけで、職場内の理解と協力が得られるケースがほとんどです。当機関でも、受け入れ前のスタッフ向けオリエンテーションをサポートしています。
ラマダン(断食月)についても知っておこう
礼拝と並んでよく質問されるのが、**ラマダン(断食月)**です。
ラマダンとは、イスラム暦の第9月にあたる約1ヶ月間、日の出から日没まで飲食を断つ慣習です。毎年時期がずれ、2025年は3月上旬〜4月上旬頃にあたります。
断食中は体力的にきつい面もありますが、**多くのインドネシア人は断食しながらも普通に働きます。**ただし、体調変化に配慮し、特に炎天下や高温環境での重労働がある場合は声掛けや業務調整を行うことが望ましいです。
また、ラマダン明けの「イード・アル=フィトル(レバラン)」は、インドネシアで最も重要な祝日です。帰国・帰省を希望するスタッフもいるため、この時期の休暇取得については事前に話し合っておくことをお勧めします。
受け入れ成功のカギは「理解」と「対話」
イスラム教の礼拝への対応は、特別な設備や大きなコストが必要なわけではありません。必要なのは、文化・宗教への基本的な理解と、本人との丁寧なコミュニケーションです。
「どのタイミングで礼拝したいか」「業務中にどう調整するか」を最初にしっかり話し合っておくだけで、多くのケースはスムーズに対応できます。
インドネシア人スタッフにとって、礼拝が尊重される職場は**「ここで長く働きたい」という定着意識**に直結します。小さな配慮が、長期的な戦力確保につながるのです。
まとめ
イスラム教の礼拝対応を整理すると、企業に必要なことはシンプルです。礼拝できる小さなスペースを確保すること、洗面台など水場へのアクセスを確保すること、そして礼拝時間について本人と事前に話し合っておくこと。この3点を押さえておけば、ほとんどの職場で無理なく対応できます。
当機関では、受け入れ前の企業向けオリエンテーションや、日本人スタッフへの異文化理解研修もサポートしています。「採用後の職場づくりが不安」という方も、ぜひ一度ご相談ください。